、ポプラの林に向いた窓から、しめやかな秋の光線が覗くやうに差してゐる。幹と幹、枝と枝との重りの間から、青い牧草の原と山の方へ登る道が見えた。私はKさんと言葉を交へながらも、自分の聲が肝高に響くやうな氣がしてならなかつた。そしていつ知らず二人の聲は密やかになつて行つた。
「ほんたうにしんとしてますね。一生こんな處に生活して行くなんて不思議なやうにお思ひになりませんか。」と、私はKさんに云つた。音響と色彩との強い刺戟の中に生きて行く都會の生活を私は思ひ浮べてゐた。
「さうですね。とても私には駄目ですよ。やつぱり我我のやうなものは、世間のごたごたの中に身を投げて、喜んだり苦しんだり悶えたりしながら、働いてゐてこそ生き甲斐があるやうに思ふんです。私にはとてもこんな生活の意味が分りません。」實務家のKさんはそんなことを云つた。そして語氣を改めて、
「一體實社會を離れて、信仰生活だけに沒頭することが人としての道に適ふのでせうか。」と、強く云ひ放つた。Kさんは彼の背後にある實社會の強い現實的な力を忘れることが出來ないやうに見えた。
「さあ、とに角私は彼等が自分を考へるやうに人のことも考へて貰ひたいと
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