思ひます。信仰の力が得られたら、また世間へ出て實社會的の爲事をしても好いでせう。或は教へを以て人達を救ふのも道の一つです。それでなければ彼等の信仰は生きて來ないぢやないでせうか。神に奉仕すると云ふこと、或は信仰を得ると云ふこと――それは我我の世界に住んでゐては遂に出來ないことなのでせうか。人を愛して絶えず群集の中に身を置いた處が基督の偉大な處だと思ひます。もつと好い意味に人間的であつて欲しい。それが私のトラピストに對する氣持です。」
「さう……何と云ひますかね。とに角偏狹です。一種の型の中に填つた人達のやうな氣がしますよ。」
「厭世家とでも云ふんでせう。厭世家と云ふものは一種のイゴイストですから……」
聲が途切れると、またしんとなる。煙草の烟が流れもしないでぢつと漂つてゐる程、室の空氣は落ち著いてゐた。
「然し我我が想ふ程、嚴しい生活ではないのかも知れませんね。」Kさんは少し皮肉なやうな調子で云つた。私もそれにつれて何氣なく笑つた。が、それは二人の今密かに感じてゐる或る心持にそぐはなかつたやうに見えた。二人はテエブルの面を見詰めながらふと默り込んだ。
と、その沈默をまさぐるやうに急
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