三人がポプラの林の間を拔けて、修道院の建物に近づいた時、地下室から聲高な祈祷の聲を聞いた。明り窓から黒の僧衣を著た修道士の姿が見えた。
「修道士は無言だと云ふんぢやないんですか。」と、私は彼等の聲を聞きながら訊ねた。
「さうです。然し祈祷と説教と懺悔の時だけはありたけの聲を出します、それも羅甸語でなんです。」と、S氏は微笑しながら答へた。
「普通の會話が出來ないとすると、どうして相互の意志を通じるんですか。」と、Kさんは訊ねた。
「暗號が定めてあります。」
「暗號……不便ですなあ。」と、Kさんは私の方を振り向きながら、幽かな驚きの表情を浮べて輕く笑つた。
修道院の傍にささやかな附屬會堂があつた。
「どうぞ此處で暫くお休み下さい。」と、S氏は云ひながら、私達を正面の室に導いた。そしてまた扉を締めて、出て行つた。彼の木靴の音が床に緩く響いた。
室は自分の息が聞える程靜かであつた。
重い、然し落ち著いた感じのする質素なテエブルと二三脚の粗末な椅子が置いてあるばかりで、地味な唐草模樣の壁紙が室を薄暗く思はせた。そして十字架の基督や、僧衣の人の像が其處に掛かつてゐた。やがて落葉頃のまばらな
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