い物ごしに幽かな反感を感じてゐた私は、女に對する反撥的な氣持も手傳つて、密に心にそんな事を呟きながら、横になる事も忘れてかはるがはる女と三人との間のアバンチユウルに興味[#底本では「輿味」、175−12]の眼を送つてゐた。
 窓外の雨は急に降りまさつて來たらしく、窓硝子を傳つて流れ落ちる水玉が玉簾のやうに動いて行く。何時しか汽車は逢阪山に差しかかつたのであらう。喘ぎ登る機關車の車輪の響が篠つく雨音の間に絶え絶えに傳はつてくる。ふと車内を見廻すと、女と三人の紳士を除いた外は、向う隅の若夫婦も、それと隣り合つた老婆の二人連れも、私の眞向うの頭の禿げた中年の商人風の男も、私の右隣の砲兵少佐も、その間に女を置いた一つ向うの二人の子供連れの何處か役人らしい夫婦も、車窓に凭り、鞄に肱をつき、或は腰掛に長長となつて、夜行列車らしいいぎたなさ[#「いぎたなさ」に傍点]で寢込んでゐる。三人の紳士の隣に腰掛けたインバネスの男は腕を組んだまま、頭を硝子窓にもたせかけてゐる。が、つぶりながらも時時引きつる瞼で、彼がまだ寢落ちてゐない事は確かだつた。
 「どうぢやね、君等の方の鐵道敷設問題は? 請願委員の上京に
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