」
「ふむ。――何しろ地盤ぢやからね。今度はこつちも苦戰ぢやらう。」
「また先生の御出馬を……」
「いや。――はつはつはつは……」
振り返ると、政黨屋の三人は人もなげな聲で、またそんな風に話し始めた。まん中に脂肥りのした體を紺の背廣服に包んだ中年の紳士、赧ら顏に赤鼻、厚い唇、白チヨツキの胸にからんだ太い金鎖の感じからが、どう見ても黨の有力者とでも云はれさうな代議士らしかつた。それを左右から挾んでゐるのは院外團の參謀とか、御用新聞の政治記者とか云つた手合であらう。髪を脂で固めたやうに分けた、揃ひも揃つて色の生白い、眼附に卑しい光のある三十四五の男である。赤革靴に霜降の流行型の背廣を着た方は金縁眼鏡を掛け、和服の方は羽織を脱いだ着流し姿になつて、毛もくぢやらの足を腰掛下に突き出してゐる。二人は取り巻きらしい態度で絶間なく赤鼻の男に話しかけるのである。と、彼は口髯を撫で上げたりしながら鷹揚作つた樣子で二人に相槌を打つ。が、三人が向ひ合せの女に意識を奪はれてゐる事は、時時偸むやうに女に注ぎかける視線でも知られた。
「こりや面白い……」
乘り合せた初めから三人の耳障りな話聲、厚かまし
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