女盗
南部修太郎
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)蓮葉《コケツト》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、底本のページと行数)
(例)パラソル[#底本では「バラソル」、171−2]
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女は黒い、小型の旅行鞄をさげた赤帽のあとから、空氣草履の足擦り靜に車内へはいつて來た。黒絹の手袋した右手に金金具、茶なめし皮のオペラパツクを、左手に派手な透模樣のパラソル[#底本では「バラソル」、171−2]を、そして、金紗づくめのけばけばしい着附、束髪に厚化粧、三十三四と見える年頃が、停車中の車内のむしむした、變にダルな空氣をぱつと引き立たせるに十分だつた。車窓には梅雨にはいつて間もない小糠雨がけむつてゐる。六月なかば過ぎの京都停車塲の夜の八時近くである。まだ寢るには早いと云つたやうな、うんじきつた樣子でゐた乘客達――それも何時になくまばらだつた十人餘りの視線は彈かれたやうに女の顏に注がれた。
「どうも御苦勞樣……」
幾らかけん[#「けん」に傍点]のある眼で、却つて反撥するやうに車内をぐるりと見渡した女は、滑かな東京辯で赤帽に
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