はだいぶ大臣の方でもてこずつてゐるやうぢやが……」
 「いや、相變らずごたついてゐますので……」
 「さうか。――だが、要は金にありさ。」
 「御尤も。――然し、何分地盤にも關係しますことで……」
 「ふうむ。――困つたものぢやね。」
 私もやがて車窓に身を凭せながら眼を閉ぢたが、あたり憚らない政黨屋の話聲は相變らず小うるさく耳についてくる。九時も過ぎたのであらう。睡魔を感じながらも、私は何故か眠りつけなかつた。と、程もなくけたたましい反響と共に汽車はトンネルにはいつた。私は諦めて、また眼を開いた。そして、本でも讀まうとする氣持になりながら、明りのうす暗くなつたやうな車室の中を何氣なくぐるりと見廻した。
 と、女は何時の間にか腰掛の上に横になつてゐた。木枕型の赤い空氣枕に頭をのせ、膝を折り立てながら、向う向きになつたまま講談雜誌らしいものを讀んでゐるのである。それが羽織もぬがないで、着物がしどけない姿に着崩れてゐる。そして、赤い襦袢の襟とたぼの後れ毛との間の白粉燒のした襟足が、電燈の光にまざまざしく照し出されてゐるのが不愉快に蠱惑的だつた。政黨屋の三人はさりげなく話し合ひながらも、時時
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