つた笑ひをにやりと私に洩らした。
 車室には昇降の客もなく、やがて停車時間も過ぎて、汽車は米原驛を離れた。
 私は漸く眠りつけさうな氣持になつて來たので、鞄を置き換へ、その上にのせかけた空氣枕に身を凭せながら眼をふさいだ。女も、まだしやべり續けてゐる三人の男も、山路に差しかかつたらしい機關車の喘ぎも、何時となく意識からうすれて行つた。そして、私は知らない間に何かに誘はれるやうに、深く眠り落ちてしまつた。
 ………………
 幾時間を過ぎたのであらう?
 耳元に喚き立てるやうな聲を聞きつけて、私はがくりと眼をさました。眼を開く、顔を上げる耳を澄ます、ぼやけた意識の焦點を合せようとする。その途端だつた。
 「怪しからん。――つまる處、お前達の注意不行届なからぢや……」
 と呶鳴りつけた赤鼻の聲が耳に響いた。私ははつとして起き上つた。見返ると、政黨屋の三人が乘客專務と車室附のボオイと向ひ合つて、可成り興奮した樣子でしやべつてゐる。乘客達の大半は起き上つて、ねぼけたやうな眼でその論爭を眺めてゐるのであつた。
 「何が始まりましたんです?」
 煙草を吸つてゐた隣の砲兵少佐に、私はそつと訊ねかけた。
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