高くあたりに聞えて來た。私は車窓から身を起しながら、薄眼にそつと女の方を振り返つた。が、一そう寢亂れたそのしどけない姿は? 何か顏をぐいと抑へられるやうな氣持で我知らず反けようとした眼を留めながら、今度は多少の好奇心も手つだつて、私は女の姿をじろりと一眼見透した。
 人の寢亂れ姿を眺める――それは寧ろ厭ふべき事に違ひなかつた。が、讀みさしの雜誌を屋根型に顏に伏せて、白肥りに贅肉づいた右手を腰掛の外に投げ出し、折り立てた足のはだけた裾の間から脛さへあらはになりかかつたその姿は、それが汽車の中で、わけても美裝した女であるだけに誰もの眼を強く惹きつけるに十分だつた。が、それを一眼見透した私の氣持は、人の秘密を偸み見たあとのやうないひ知れぬ不快さが一杯だつた。そして、その不快さに交る幽かな羞恥の念を意識しながら、私は直ぐ視線を外へ移した。と、何時眼ざめたのか、私と向ひ合せの頭の禿げた、商人らしい中年の男も、煙草の紫烟の間に薄笑ひを洩らしながら、じろりじろりと女の方を眺めてゐた。
 「いや、これはどうも……」
 次の刹那に、私とばつたり顏が合つた時、男はさういつた表情で、明かに或る不快な感情の籠
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