吻
ウプサラ社交界の華ヂレツト・ホテル、裝飾電燈《シヤンデリア》輝く溜間《ロビー》には夜の裝ひを凝らした紳士淑女の群、その玄關先に自動車を乘り捨てたソオル主任警部とエリクソン署長は外套を預所《クローク》に置くと、すぐ支配人に面會を求めた。
「若男爵御夫妻はただ今大食堂の方においででございます。御友人六名樣と‥‥」
慇懃にさう言つて、支配人は二人を早速大食堂の入口へ案内して行つた。と、折柄ダンスの一くさりが終つたばかりで、亞麻色髮《ブロンド》の若男爵フレデリックはその踊相手と、黒髮の持主の美しい夫人のイングンは夫の友達の一人と、何れも自分達の食卓に戻る所だつた。そして、その食卓の上には大きな花鉢に盛られた赤い薔薇が鮮かな色に映えてゐた。
「若男爵にここへお出で戴きませうか?」
支配人がさう尋ねると、ソオルはちよつと躊躇の色を見せたが、とにかく一人の紳士がお眼に掛かりたいから、その邊に小部屋はないかね?」
「ございますとも、あすこに‥‥」
ソオルとエリクソンは溜間を横切つてその方へ歩いて行つた。一方支配人はフレデリックの食卓に近寄ると、ソオルの詞のままをその耳元に囁いた。
「ふふん
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