エリクソンはちやうど受話器を掛け降した所で、
「ただ今若男爵のをられる場所を部下から報告してまゐりましたんです。」
 と、署長は早速自分から口を切つて、
「實はお住居の方においでがないんで少々氣をもんでをりました所、若夫人と御一緒にヂレツト・ホテルで御晩餐中と分りました。何でも御友人方と賑かなお集りださうで、わたしが參るまでお父上の御最後に就いてはお聞かせするなと命じて置きました。すぐにお伴してあちらへ參りませうか?」
「よからう‥‥」
 と頷いて、ソオルは署長が外套を着るのを待つてゐた。そして、あはや二人が出掛けようとした刹那、けたたましい電話の鈴!
「警部殿へです。」
 さう署長に言はれて、受話器を受け取るなり耳に當てたが、向ふはグスタフソン警視でその聲は凄まじいばかりの興奮に殆ど聞き取れないほどだつたが、ソオルの顏は忽ちさつと灰白色に變つてしまつた。
「な、何事ですかつ?」
 と叫んで一歩前に出た署長を制しながら、暫く貪るやうに耳を傾けてゐたソオルはやがてがちやんと受話器を降すと、聲ひそめて、
「ヂレツト・ホテルへ急行だ。一刻も猶豫はならん。正に青天の霹靂‥‥」

    死の接
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