やアどういふ奴だつたね?」
 と、ソオルはひどく熱心に尋ねかけた。
「さやうさ、四時に十分ほど前でした。」
 と、集配人は考へ考へ話し出した。
「ここへ配達にやつて來て、溜間《ロビー》に郵便物を置くとすぐ表へ出ましたが、途端に一臺の自動車が入口の正面に止まつたんです。何しろひどい雪降りで十分には分りませんでしたが、どうも辻自動車だつたやうで、中から一人の男が降りてくると入口の方へ歩いて行きました。そして、ふと扉の所に立ち止まると車の中の誰かに聲を掛けたやうでしたが、その時あたしは歩き出してましたんで‥‥」
「外には誰も車から降りて來なかつたかね? そして、門番は入口にゐたやうかね?」
 と、ソオルの問ひに集配人は首を振つて、
「いいや、門番はをりませんでしたよ。それから他には誰も降りて來なかつたやうです。何しろちやうど歩き出してたんで、その男の顏もよくは見ないやうな譯なんで‥‥」
 何か犯人の人相風體を聞き出さうと必死になつてゐたソオルは、可成りがつかりした樣子だつた。が、その辻自動車に乘つて來たといふだけでも正に絶好の手掛りだつた。
 次の刹那、ソオルは電話器に飛びついて、グスタフソ
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