端をつまんで眺めてゐると、巡査部長が飛び込んで來て、
「な、何でございますか、それは?」
「血を拭いた布だよ。」
 と、ソオルはその發見に大滿足の體で、
「然し、いつたい誰の物かね? 無論、あの孃ちやんや雇女達の用ゐる奴ぢやない。こりやア非常に金持の女の肌着の一部分だよ。」
 部長はひどく驚いた樣子で小聲になり、
「まさか犯人が女なんていふことは‥‥」
「いや、どんな女だつてあんな打撃を加へ得る力があるものか。だが、女が犯人と一緒といふことはあり得る。若しかすると、この兇行には何かの形で女が交つてるぞ。」
 間もなく、戸棚の中の重ねた食卓掛布《テーブル・クロス》の下から血染めの下袴の殘りの隱してあるのが見つかつた。それは肩の釣革を引きちぎつた下袴の上半だつたが、その無氣味な第二の發見物を調べてゐたソオルは突然呶鳴つた。
「圖星だ! 正に女が登場してゐる。つまり着物の下から下袴を引きちぎつて、そいつで血をぬぐつたんだよ。」
 その時玄關の扉を強く叩く音がした。そして、やがて一人の巡査が制服を着た郵便集配人を伴つて來ながら、
「實はこの男が犯人らしい者を目撃しましたさうで‥‥」
「そ、そり
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