二人の女を殺害したのか? 一方、男爵はいつも紙入に大金を入れて置くといふことだが、死體の懷中には一文の金もなく紙入も見つからなかつた。この點ちよつと強盜の仕業らしくもあるが、物取が目的ならただの|追剥ぎ《ホールド・アツプ》でも濟む譯。尤も、何かの理由で殺害の後、犯人が出來心で奪ひ取ることもあり得るが、どうにも不可解なのはその二人の女の慘虐な殺し方だ。
 今やソオルはゼッテルベルグ、シイドウの兩慘劇が同一犯人の仕業であることを固く信じた。そして、それが一種の殺人狂の兇行だとするグスタフソン警視の見込が正しいこと、犯人が少くともシイドウ男爵家に何かの縁故を持つ者だといふことをはつきりと感じるに至つた。

    淡紅色《ピンク》の下袴《スリツプ》
 三つの死體を運搬自動車で送り出したあと、ソオルは更に辛抱強い探査をつづけてゐたが、やがて何の氣もなく應接間の長椅子の褥をひよいと持ち上げた途端に突如として眼に著いた生々しい血染めの布、何とそれは婦人の肌に著ける贅澤なレイスで縁取りした絹の下袴の斷片ではないか?
「大發見、大發見‥‥」
 と、もとは淡紅色なのだが今は血で眞紅に染まつたその下袴の兩
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