きなほると、
「今日の午後外には誰もここへ案内しなかつたといふが、間違ひないかな?」
「はい、モニカ樣と男爵樣の外にはたしかにどなたも‥‥」
 と、ボオイは躊躇なく答へて、
「それから門番さんも別にはいつた者は見ないと言つてますが、門番さんのゐなくなつたちよつとの隙に、犯人が通りから溜間《ロビー》へこつそりはいることは出來なかアありませんや、さうだと、あたしの眼にも着かずに階段の方から階上へ昇つて行けまさア。」
「やア結構結構」
 と短く言つて、ソオルは突然立ち上つた。部長はすぐに二人の證人を連れて去つた。
 ソオルは改めて現場を綿密に調べ歩いた。そして、人目に觸れずに玄關に達した犯人は無理な侵入の跡のない點から見ると小間使と知合ひか何かで簡單に中へはいつたものと推定したが、この邊ゼッテルベルグの慘劇と類似の點があるのに注目した。それから犯人は先づカロリイナを難なく慘殺し、つづいて小間使のエツバを襲つたが、その必死の叫びも抵抗も非常に厚い壁のためにどこへも聞えず、さうして間もなく主人の老男爵が死の罠へ歩み込んで來たのに相違なかつた。
 それにしても、いつたい何の目的で少しも防禦力のない
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