こへ屆いた。それに依ると、男爵は四時少し前に事務所を引き揚げアパアトメント・ハウスの入口で自動車を降りたが、それがお抱へ運轉手の眼に殘る生きた主人の最後の姿で、溜間《ロビー》からすぐ昇降機で三階へ昇ると、自分で鍵をあけて住居の中へはいつて行くのを昇降機のボオイも見屆けてゐたといふのだつた。ソオル巡査部長、警察醫の三人はたつた二日前に老富豪がソオルを引見した書齋で暫く協議を重ねた。
「女達が先に殺されたのはたしかかね?」
「たしかですとも‥‥」
と、醫師はソオルの問ひに答へて、
「二人の死體の模樣では、男爵が戸口をはひつた時には全く絶命してゐたことでせう。」
「ふむ‥‥」
と、ソオルは男爵の机の端に腰掛けて鉛筆でその面をこつこつ叩きながら、
「すると、二つの場合があり得る譯だな。男爵が犯人を驚かしたか? 或は犯人が殺意を以て用意周到に待ち伏せしてゐたか? それにしても、まるで物取の形跡がないとは?」
「全くですな。」
と、巡査部長は肩を搖す振つた。
「とにかく男爵の姪を先づ調べてみよう。それからこの住居へその娘さんをはいらせたといふ昇降機のボオイをね。」
立ち上つた巡査部長は間も
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