上役を振り返つて、
「この婆さんは戸口に背中を向けて搖り椅子に凭つてゐた所をやられた模樣です。で、犯人の一撃を受けると、一溜りもなくうつ伏せに倒れてしまつて、小間使のやうに抵抗する隙は全然なかつたものと考へますが‥‥」
「君、兇器は見つからんかね?」
と、グスタフソンは尋ねかけた。
「それから、犯人をどこかで見掛けたといふやうな者は?」
「はい、兇器はまだ見つかりません。」
と、巡査部長はかぶりを振つて、
「それから、犯人の目撃者に就きましては部下に申しつけまして、この建物や近所の住居人を早速調査させてをりますが‥‥」
グスタフソンとソオルは住居の表側の方へまた戻つて行つた。グスタフソンは相變らずすべての點に機敏で拔目がなかつた。そして、部下に適宜の指示を與へたりしたが、相つぐこの恐ろしい慘劇にはさすがに打ちのめされた樣子だつた。ヨオロツパでも警察力の完備した所と聞えたストツクホルム、當然喧々囂々たる非難の矢面に立つ責任者だつたから‥‥。
檢視を濟ましたグスタフソンが間もなく引き揚げて行くと、ソオルは早速證人喚問に取りかかることにしたが、男爵の行動を調べさせてゐた刑事の報告がそ
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