引き摺つて來られたもののやうです。犯行は男爵の姪御のモニカ・シユワルツ孃によつて三十分ほど前に發見されたんでありますが、裏側の部屋にも同樣な手口で殺害された死體がございます。それ等はわたし共が來た時には全く絶命してをりました。」
「それ等とは?」
と、グスタフソンが尋ねかけた。
「雇女であります。一名は老家政婦のカロリナ・ヘルウ、一名は若い小間使のエツバ・ハム、どうぞあちらで御見分願ひます。」
巡査部長の案内で食堂を横切ると、住居の裏側へ進んで行つた。先づ臺所には顏をぐざぐざに碎かれた小間使が仰向きに倒れて、床にも家具にも血が飛散してゐた。そして、無慘にも剥がれた兩手の爪、それは死に面して娘が如何に狂ひもがいたかを語り、頭蓋からへぎ取られた一束の髮の毛さへ死體の傍に投げ出されてゐた。
「一昨日取次に出たのはこの娘でした。」
と、ソオルは死體の傍に膝まづきながら、
「この娘も男爵もゼッテルベルグの一家と全く同じ手口で殺害されてをりますな。」
グスタフソンは頷いた。巡査部長は更に隣の小部屋へ導いて行つた。そこの床にはうしろの頭蓋骨を打ち碎かれた老婆がうつ伏せに倒れてゐた。巡査部長は
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