見守つてゐたが、やがてグスタフソンに囁きかけた。
「一昨日訪ねた時、男爵がもつと率直に打ち明けてくれましたらね! たしかに何か祕密を胸にたたんでゐたやうですが‥‥」
グスタフソンは無言だつた。そして、警察自動車は街燈の光りも見え分かぬ、雪の深い通をのろくさい速度で走つてゐたが、やつとのことで、シイドウ男爵の住ふアパアトメント・ハウスの廣大な入口に辿り着いた。
解き得ぬ謎
グスタフソンとソオルは早速昇降機で三階へ急いだ。そして、二人の巡査の張番してゐる玄關を通ると、ソオルは先に立つて例の豪奢な應接間へはいつて行つた。と、數人の警察官に取りかこまれた一つの安樂椅子、その上に顏の上半を打ち碎かれて血みどろになつた男爵のでつぷりした體が横たはり、椅子にも高價な敷物にも血が流れてゐた。
「もう事切れてゐるのかね?」
と、ソオルはその傍に膝まづいてゐた警察醫に向つて聲高く尋ねかけた。
「はい、たうとう意識を回復なさらないで、今し方息を引き取られました。」
醫師がさう答へると同時に一人の巡査部長が進み出て、堅苦しく一禮しながら、
「血の痕を見ますと、男爵は食堂で打ち倒され、ここまで
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