の別莊の方へ歩いてく見慣れねエ男を見ましたよ。そいつはそこの石段のところに立ち止まつて、靴の雪をかいてやがつたつけ。何しろもう薄暗かつたんではつきりとは見えなかつたが、風體ぢやアたしかに町の人間みてエだつたなア‥‥」
證人調べはまアそんな工合に進んで行つた。或る男は老人が土曜日にストックホルムへ行つたこと、行く前に或る用件を片附けるつもりだと話してゐたといふことを述べた。また島人の一人は暫く島に暮してゐた或る男が水曜日に姿を隱したといふ事實を洩らした。警視は勿論その男の名を問ひ質した。また他の一人は水曜日の午後別莊から半マイルほどの所で二人の男の乘つた自動車を見たと申し立てた。そして、その二人はフエドラ帽を眞深にかぶり、一人は角縁の眼鏡を掛けてゐたといふ事だつた。その他細君の妹のクリスチナが姉の怪我の看護や家政を見に泊りに來てゐて、慘酷な災難に逢つた事情も分つたが、とにかくゼツテルベルグ一家には敵などは全然ないらしく、誰もが老人夫婦の善良さ深切さを口々にたたへるのだつた。
念入りな取調べにたうとう夜が明けてしまつた。運搬自動車は三つの死體をストックホルムへ運んで行つた。そして、別莊
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