、其處から傳はつてくる體熱はお前の體を燒き盡さうとでもするやうに強かつた。あつふあつふと生ら暖い吐息が私の顏に感じられた。お前の口は半分明け放たれ、齒並の奧に白苔の生えた舌が縺れてゐた。
『どうかして下さい。痛、痛つ‥‥‥』と、その時お前は顏を歪めて、敷布《シイツ》の上にのけぞりながら身もがきした。私は我知らず顏を反けずにはゐられなかつた。そんなお前のしどけない姿を、醜い澁面《グリメエス》を私は今まで見た事がなかつたのだ。そして、病氣がお前の日頃のつつましやかな、物靜かな、内氣な物ごしのすべてを毀してしまつた幻滅をふと感じた。實際、お前の訴へてゐる苦惱と、またお前の生死に對する不安とに殆ど意識を困迷させられてゐながら、どうしてそんな冷たい心の隙間が私の心に出來たか。とに角、掛布を速にお前の胸に覆ひながら、滑り落ちた氷嚢をお前の額に置きながら、さうしたお前を母や兄や看護婦達にまざまざしく見詰められる事が私には苦しかつた。
『お動きなすつてはいけません。もう少しで御座います。お體に障ります‥‥‥』と、同時に看護婦はお前の耳元に囁いた。
『痛、痛つ‥‥‥』と、お前はまた夢中で叫んで、敷布を撥
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