の聲はその時もうけだるく、力を失つたものだつた。
『二十五‥‥‥』と、續いて助手の聲は手術室の靜かな空氣を高く貫いた。
と、其處に何秒間かの沈默が來た。お前はもう答へなかつた。ただ幽かな息の音がマスクの下に感じられた。そして、更に聲高な助手の『二十六、二十七‥‥‥』にもお前の聽覺は何等の反響を感じないやうに見えた。深い昏睡がお前の上に來たのだ。水島は靜かにお前に近づいて瞳孔を調べた。その眼は助手の顏の上に、續いて銀色のメスやピンセツトの上にす早く動いて行つた。
瞬間、しんとした室内の七人の人影は臥像のやうなお前を取り卷いて、ぢつと佇んだ。嵐の前のやうな靜寂がふと其處に來たのだつた。が、助手は再び滴壜を傾けてマスクの上にコロロホルムを滴らしながら、脣をお前の耳元に近づけて『二十八‥‥‥』と叫んだ。然し、其處にはお前の間遠な息が靜に聞えてゐるばかりだつた。
何秒間かが息を抑へるやうな靜けさの内に流れて行つた。
と、次の刹那に、お前の顏を覆つたマスクが忽にふはふはと動き出したのに驚く隙もなかつた。
『庭の千草も‥‥‥』と、お前は突然唄ひ出したのだつた。その聲は今までの數へ聲をすつかり裏切
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