に聞えた次の瞬間に、私の體はまた水を浴びせられたやうに戰いた。そして、その戰きを抑へながらぢつと不安の眼を見開いてゐる私の前に、白の手術著を著せられたお前は半ば意識を失つたまま手術臺の上に寢かされたのだつた。水島はお前の胸に一わたり聽診器を當てた。忽ちマスクがお前の顏を覆つた。と、一人の助手はコロロホルムの滴壜を持つた。二人の助手は左右からお前の手の脈搏を數へ出した。
『私について數を數へて下さい‥‥‥』と、滴壜を手にした助手は、命令するやうな句調でお前の耳元に囁いた。お前は幽かに頷いた。
『一‥‥‥』と、その助手が太い、バスの聲で叫んだ。
『一‥‥‥』と、お前は低い、けれどはつきりした聲で助手の聲を追つた。
『二‥‥‥』と、間を置いてまた助手が云つた。
『二‥‥‥』と、お前はそれに續けた。
 水島は傍の置時計を見詰めながら、お前の聲に聽き入つてゐた。
 私はもう身動きする事も許されないやうな氣持で窓際に佇んで、助手の間に見えるお前の顏に喰ひ込むやうな視線を投げてゐた。そして、抑へようとすればする程ぴくぴく顫へ出してくる脣を噛みながら、お前の、宛《まる》で穴の底から反響してくるとでも云
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