身に一種の緊張感を感じながら答へた。と、助手の一人がその聲にひよいと聽耳を立てて、私の顏に意味ありげな視線を投げた。が、全くの處、私はその詞に確信を持つてゐたのだ。そして、もう如何とも仕難い數分間の内に迫つたお前の手術に對して、例へそれがどんなに凄慘な場面《シイン》を展開させようと、また例へその爲めにお前の生命がどう云ふ結果にならうと、私は自分の理性が、いや意志が、堅固に自分を支配して行くに違ひない事を信じてゐたのだ。
『ふむ、それで僕も安心だ‥‥‥』と、水島はその額の廣い、端嚴な理智の勝つた顏で頷きながらかう云つた。私は、お前の生命を當然左右し得る立場にゐる水島の、その落ち着き拂つた態度に一種の尊敬の念と心強さを感ぜずにはゐられなかつた。
『然うね水野君、これも前以て注意して置きたい事だが、手術を受ける患者はコロロホルムの麻醉期に這入ると、大概の場合歌を唄ひ出したり、囈言を云つたりするものだ。藤子さんはどうだか知らないが、これにも驚いちや好けないぜ‥‥‥』と、また水島は云つた。
『ふうん、そんな事があるかね‥‥‥』と、私はお前が歌を唄ひ出したりする瞬間の想像に、ひよいと幽かなをかしさ
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