でならないかはだんだんに私の頭に明かになつた。
『もう、直ぐに手術でございますから‥‥‥』と、やがてかう中年の看護婦長が知らせて來たが、私は直ぐに決心して立ち上つた。
『氣を附けるが好いぞ‥‥‥』と兄は背後からぐつと抑へつけるやうな聲で云つた。
窓硝子を堅く鎖してしまつた手術室の中は、夏の午後のむれ返るやうな熱氣で、息が抑へられるやうだつた。が、折からの窓の西日影を薄茶色のカアテンで遮つた室内の薄暗さが、白壁と、コンクリイトの床と、エナメル塗の手術室と、銀色の外科用具と、まつ白なガアゼや脱脂綿と、酸いやうな匂ひのする消毒藥と、また其處に動いてゐる若い三人の助手や看護婦長や看護婦達の白の著附、無表情な顏――さうした感情的な何物もない、冷靜、清淨、精緻、明確その物のやうな存在物と共に、心を底冷えさせてしまふやうな空氣をあたりに漂はせてゐたのだつた。
『ほんとに大丈夫だらうね‥‥‥』と、消毒著に著換へた私が其處に這入つて手術臺に面した窓際に立つた時、メスの刄を調べてゐた水島はかちりとそれを硝子臺の上に置いて、また低い聲でかう私に耳打ちした。
『いや、決して案じないで好いよ‥‥‥』と、私は總
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