降《お》りた。そして、暫《しばら》くあたりを歩《ある》きまはつてゐたが、ちよつとした土《つち》の凹《くぼ》みにぶつかると、嘴《くちばし》と前脚《まへあし》で穴《あな》を掘《ほ》り出《だ》した。
(セリセリスだな。)
 いつか讀《よ》んだアンリ、フアブルの「昆蟲記《こんちうき》」を思《おも》ひ浮《うか》べながら、夫《をつと》は好奇《かうき》の瞳《ひとみ》を凝《こ》らした。そして、ばたばた近寄《ちかよ》つて來《き》た夏繪《なつゑ》と敏樹《としき》を靜《しづか》にさせながら、二人《ふたり》を兩方《りやうはう》から抱《いだ》きよせたまま蜂《はち》の動作《どうさ》を眺《なが》めつゞけてゐた。
 蜂《はち》は絶《た》えず三|人《にん》の存在《そんざい》を警戒《けいかい》しながらも、一|心《しん》に、敏活《びんくわつ》に働《はたら》いた。頭《あたま》が土《つち》に突進《とつしん》する。脚《あし》が盛《さかん》に土《つち》をはねのける。それは靜《しづか》に差《さ》した明《あか》るい秋《あき》の日差《ひざし》の中《なか》に涙《なみだ》の熱《あつ》くなるやうな努力《どりよく》に見《み》えた。そして、一|厘
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