途端《とたん》に、夏繪《なつゑ》は手《て》を叩《たた》きながら、復讐的《ふくしふてき》に野次《やじ》り立《た》てた。
 わざと大袈裟《おほげさ》に頭《あたま》をかきながら、夫《をつと》は鞠《まり》を追《お》つた。そして、庭《には》の一|隅《すみ》の呉竹《くれたけ》の根元《ねもと》にころがつてゐるそれを拾《ひろ》ひ上《あ》げようとした刹那《せつな》、一|匹《ぴき》の蜂《はち》の翅音《はおと》にはつと手《て》をすくめた。見返《みかへ》ると、黒《くろ》に黄色《きいろ》の縞《しま》のある大柄《おほがら》の蜂《はち》で、一|度《ど》高《たか》く飛《と》び上《あが》つたのがまた竹《たけ》の根元《ねもと》に降《お》りて來《き》た。と、地面《ぢべた》から一|尺《しやく》ほどの高《たか》さの竹《たけ》の皮《かは》の間《あひだ》に蜘蛛《くも》の死骸《しがい》が挾《はさ》んである。蜂《はち》はそれにとまつて暫《しばら》く夫《をつと》の氣配《けはい》を窺《うかゞ》つてゐるらしかつたが、それが身動《みうご》きもしないのを見《み》ると、死骸《しがい》を離《はな》れてすぐ近《ちか》くの地面《ぢべた》に飛《と》び
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