きげん》だつた。
「さあ、夏繪《なつゑ》。今度《こんど》はうまく受《う》け取《と》るんだぞ。そら、ワン、ツウ、スリイ‥‥」
と、夫《をつと》は四五|間《けん》向《むか》うに立《た》つてゐる子供《こども》の方《はう》へ色《いろ》どりしたゴム鞠《まり》を投《な》げた。が、夏繪《なつゑ》は息込《いきご》んでゐたのがまたも受《う》け取《と》りそこねて、鞠《まり》は色彩《しきさい》を躍《をど》らしながらうしろの樹蔭《こかげ》へころがつて行《い》つた。
「駄目《だめ》よ、パパア。そんなにひどくはふつちやア‥‥」
と、夏繪《なつゑ》は紺《こん》のスカアトを翻《ひるがへ》しながら鞠《まり》を追《お》つた。
「そオら、今度《こんど》は敏樹《としき》はふつて御覧《ごらん》‥‥」
「うん‥‥」
と受《う》け答《こた》へて、茶色《ちやいろ》のスエエタアを着《き》た、まるまる肥《ふと》つた體《からだ》をよちよちさせながら、敏樹《としき》は別《べつ》の小《ちひ》さな鞠《まり》を投《な》げた。が、見當《けんたう》はづれて、それは夫《をつと》の横《よこ》へそれてしまつた。
「やアい、パパだつて下手《へた》だわ」
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