つてるのよ。お願《ねが》ひですから、子供《こども》にだけは、子供《こども》にだけはみじめな思《おも》ひをさせないやうにね」
「分《わか》つた、分《わか》つた」
 不意《ふい》にうるんだ妻《つま》の瞳《ひとみ》を刹那《せつな》に意識《いしき》しながら、夫《をつと》はわざと投《な》げつけるやうに言《い》つた。何《なに》か重《おも》いものが胸《むね》に來《き》た。そして、夫《をつと》は壁掛《かべかけ》を手《て》に取《と》ると、急《いそ》ぎ足《あし》にアトリエの方《はう》へ立《た》つて行《い》つた。

     2

 二三|日《にち》經《た》つた或《あ》る晴《は》れた日《ひ》の午後《ごご》だつた。朝《あさ》の半日《はんにち》をアトリエに籠《こも》つた夫《をつと》は庭《には》で二人《ふたり》の子供《こども》と快活《くわいくわつ》な笑聲《わらひごゑ》を立《た》ててゐた[#句点が抜けていると考えられる]長女《ちやうぢよ》の夏繪《なつゑ》と四つになる長男《ちやうなん》の敏樹《としき》と、子供《こども》好《ず》きの夫《をつと》は氣持《きもち》よく仕事《しごと》が運《はこ》んだあとでひどく上機嫌《じやう
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