だいいけれど、さうなつてから今《いま》のやうなのはあたしまつぴらだわ[#印刷不鮮明、87−14]。第《だい》一、こんな暮《くら》し方《かた》をしてゐて、さきさきどうなるかと思《おも》ふと不安《ふあん》ぢやなくつて?」
 言《い》ひながら、妻《つま》はまともに夫《をつと》の顏《かほ》を見《み》た。
 夫《をつと》は思《おも》はず眼《め》をそらした。すつかり弱味《よわみ》を突《つ》かれた感《かん》じで内心《ないしん》まゐつた。が、そこで妻《つま》の非難《ひなん》をすなほに受《う》けとるためには夫《をつと》の氣質《きしつ》はあまりに我儘《わがまま》で、負《ま》け惜《をし》みが強《つよ》かつた。それに自分《じぶん》でも可成《かな》り後悔《こうくわい》しかけてゐる矢先《やさき》だつたのが、反撥的《はんぱつてき》に、夫《をつと》の氣持《きもち》をあまのじやく[#「あまのじやく」に傍点]にした。
「ふん、それでまた貯金《ちよきん》でもしたいつていふ例《れい》の口癖《くちぐせ》だらう?」
「だつて、さうでもしなかつたら‥‥」
「よせ、よせ。僕《ぼく》はそんな貯金《ちよきん》なんて、けち臭《くさ》い、打
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