で囁《ささや》いた。
 穴《あな》はもう殆《ほとん》ど蜂《はち》の體《からだ》のすべてを隱《かく》すやうな深《ふか》さになつてゐた。が、蜂《はち》はまだその劇《はげ》しい勞働《らうどう》を休《やす》めなかつた。そして、その間《あひだ》にも絶《た》えず三|人《にん》の樣子《やうす》を警戒《けいかい》し、なほも二三|度《ど》蜘蛛《くも》の死骸《しがい》の存在《そんざい》をたしかめに行《い》つた。
(本能《ほんのう》、これがただ本能《ほんのう》だけで出來《でき》ることか知《し》ら?)
 その眞劍《しんけん》さに打《う》たれて、夫《をつと》はそんな事《こと》を考《かんが》へつづけながら、ぢつと瞳《ひとみ》を凝《こ》らしてゐた。
 體《からだ》が穴《あな》の中《なか》にすつかり見《み》えなくなるほどの深《ふか》さになると、蜂《はち》はやがてほつとしたやうにそとへ出《で》て來《き》た。そして、なほも警戒《けいかい》するやうに念《ねん》を入《い》れるやうに穴《あな》のまはりを歩《ある》きまはつてゐたが、やがてひよいと飛《と》び上《あが》ると、蜘蛛《くも》の死骸《しがい》をくはへて再《ふたた》び穴《あ
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