ゐかくてき》な素振《そぶり》を見《み》せた。
「あら、蜂《はち》が怒《おこ》つてよ」
と、夏繪《なつゑ》は恐《おそ》れるやうに囁《ささや》いて夫《をつと》の手《て》を抑《おさ》へた。
が、惡戯《いたづら》氣分《きぶん》になつて、夫《をつと》は手《て》を引《ひ》かなかつた。そして、なほも蜂《はち》の體《からだ》につつ突《つ》きかかると、すぐ嘴《くちばし》が松葉《まつば》に噛《か》みついた。不思議《ふしぎ》にあたりが靜《しづ》かだつた。が、やがて不意《ふい》に松葉《まつば》から離《はな》れると蜂《はち》はぶんと飛《と》び上《あが》つた。三|人《にん》ははつとどよめいた。けれども、蜂《はち》は大事《だいじ》な犧牲《ぎせい》の蜘蛛《くも》の死骸《しがい》を警戒《けいかい》しに行《い》つたのだつた。で、その存在《そんざい》をたしかめると、安心《あんしん》したやうにまたすぐ穴《あな》の所《ところ》へ飛《と》び降《お》りて來《き》た。
「パパ、また穴《あな》を掘《ほ》るよ」
と、しやがんで膝《ひざ》にぢつと兩手《りやうて》をついたまま、敏樹《としき》が何《なに》か恐《おそ》れるやうな聲《こゑ》
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