、彼《かれ》は闇《やみ》の中《なか》をひよろけてまた背後《はいご》の兵士《へいし》に突《つ》き當《あた》つた、「氣《き》を附《つ》けろい‥‥」と、その兵士《へいし》が呶鳴《どな》つた。彼《かれ》はやつと我《われ》に返《かへ》つて歩《ある》き出《だ》した。
「中根《なかね》だな、相變《あひかは》らず爲樣《しやう》のない奴《やつ》だ‥‥」と、私《わたし》は銃身《じうしん》で突《つ》き上《あ》げられた左《ひだり》の頬《ほほ》を抑《おさ》へながら、忌々《いまいま》しさに舌打《したう》ちした。
が、この出來事《できごと》は私《わたし》の眠氣《ねむけ》を瞬間《しゆんかん》に覺《さ》ましてしまつた。闇《やみ》の中《なか》を見透《みすか》すと、人家《じんか》の燈灯《ともしび》はもう見《み》えなくなつてゐた。F町《まち》は夢中《むちう》で通《とほ》り過《す》ぎてしまつたのだつた。そして、變化《へんくわ》のない街道《かいだう》は相變《あいかは》らず小川《をがは》に沿《そ》うて、平《たひら》な田畑《たはた》の間《あひだ》をまつ直《す》ぐに走《はし》つてゐた。霧《きり》は殆《ほとん》ど霽《は》れ上《あが》つ
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