て、空《そら》には星影《ほしかげ》がキラキラと見《み》え出《だ》した。ひんやりした夜氣《やき》が急《きふ》に體《からだ》にぞくぞく感《かん》じられて來《き》た。
「おい河野《かうの》‥‥」と、私《わたし》は變《へん》な心細《こころほそ》さと寂《さび》しさを意識《いしき》して、右手《みぎて》を振《ふ》り向《む》いて詞《ことば》を掛《か》けたが、河野《かうの》は答《こた》へなかつた。首《くび》をダラリと前《まへ》に下《さ》げて、彼《かれ》は眠《ねむ》りながら歩《ある》いてゐた。
――然《しか》し、みんなやつてるな‥‥と、續《つづ》いて周圍《しうゐ》を見廻《みまは》した時《とき》、私《わたし》は夜行軍《やかうぐん》の可笑《をか》しさとみじめさ[#「みじめさ」に傍点]を感《かん》じて呟《つぶや》いた。四|列縱隊《れつじうたい》は五|列《れつ》になり三|列《れつ》になりして、兵士達《へいしたち》はまるで夢遊病者《むいうびやうしや》のやうにそろそろ歩《ある》いてゐるのだつた。指揮刀《しきたう》の鞘《さや》の銀色《ぎんいろ》を闇《やみ》の中《なか》に閃《ひらめ》かしてゐる小隊長《せうたいちやう》の
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