大島少尉《おほしませうゐ》さへよろけながら歩《ある》いてゐるのが、五六|歩《ほ》先《さき》に見《み》えた。
が、寢《ね》そけてしまつた私《わたし》の頭《あたま》の中《なか》は變《へん》に重《おも》く、それに寒《さむ》さが加《くは》はつて來《き》てゾクゾク毛穴《けあな》がそば立《だ》つのが堪《たま》らなく不愉快《ふゆくわい》だつた。私《わたし》は首《くび》をすくめて痛《いた》む足《あし》を引《ひ》き摺《ず》りながら厭《い》や厭《い》や歩《ある》き續《つづ》けてゐた。
「さうだ、もう月《つき》が出《で》る時分《じぶん》だな‥‥」と、暫《しばら》くして私《わたし》は遠《とほ》く東《ひがし》の方《はう》の地平線《ちへいせん》が白《しら》んで來《き》たのに氣《き》がついて呟《つぶや》いた。その空《そら》の明《あか》るみを映《うつ》す田《た》の水《みづ》や、處處《ところどころ》の雜木林《ざふきばやし》の影《かげ》が蒼黒《あをぐろ》い夜《よる》の闇《やみ》の中《なか》に浮《う》き上《あが》つて見《み》え出《だ》した。私《わたし》はそれをぢつと見詰《みつ》めてゐる内《うち》に、何《なん》となく感傷的
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