《かんしやうてき》な氣分《きぶん》に落《お》ちて來《き》た。そして、そんな時《とき》の何時《いつ》もの癖《くせ》で、Sの歌《うた》なんかを小聲《こごゑ》で歌《うた》ひ出《だ》した。何分《なんぷん》かがさうして過《す》ぎた。
と、いきなり左《ひだり》の方《はう》でガチヤガチヤと劍鞘《けんざや》の鳴《な》る音《おと》がした。ゴソツと靴《くつ》の地《ち》にこすれる音《おと》がした。同時《どうじ》に「ウウツ‥‥」と唸《うな》る人聲《ひとごゑ》がした。私《わたし》がぎよツとして振《ふ》り返《かへ》る隙《すき》もなかつた。忽《たちま》ち夜《よる》の暗闇《くらやみ》の中《なか》に劇《はげ》しい水煙《みづけむり》が立《た》つて、一人《ひとり》の兵士《へいし》が小川《をがは》の中《なか》にバチヤンと落《お》ち込《こ》んでしまつた。
――とうとうやつたな‥‥と、私《わたし》は思《おも》つた。そして、總身《そうみ》に身顫《みぶる》ひを感《かん》じながら立《た》ち留《どま》つた。中根《なかね》の姿《すがた》が見《み》えなかつた。小川《をがは》の油《あぶら》のやうな水面《すゐめん》は大《おほ》きく波立《なみ
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