だ》つて、眞黒《まつくろ》な人影《ひとかげ》が毆《こは》れた蝙蝠傘《かうもりがさ》のやうに動《うご》いてゐた。
「誰《だれ》だ、誰《だれ》だ‥‥」と、小隊《せうたい》の四五|人《にん》は川岸《かはぎし》に立《た》ち止《ど》まつた。
「中根《なかね》だ‥‥」と、私《わたし》は呶鳴《どな》つた。
混亂《こんらん》が隊伍《たいご》の中《なか》に起《おこ》つた。寢呆《ねぼ》けて反對《はんたい》に駈《か》け出《だ》す兵士《へいし》もゐた。ポカンと空《そら》を見上《みあ》げ[#「見上《みあ》げ」は底本では「見上《みあ》け」]てゐる兵士《へいし》もゐた。隊列《たいれつ》の後尾《こうび》にゐた分隊長《ぶんたいちやう》の高岡軍曹《たかをかぐんそう》は直《す》ぐに岸《きし》に駈《か》け寄《よ》つた。
「早《はや》く上《あ》げてやれ‥‥」と、彼《かれ》は呶鳴《どな》つた。
中根《なかね》は水《みづ》の中《なか》で二三|度《ど》よろけたが、直《す》ぐに起上《おきあが》つた。深《ふか》さは胸程《むねほど》あつた。
「おい銃《じう》だよ、誰《だれ》か銃《じう》を取《と》つてくれよ‥‥」と、中根《なかね》は一|
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