所懸命《しよけんめい》に右手《みぎて》で銃《じう》を頭《あたま》の上《うへ》に差《さ》し上《あ》げながら呶鳴《どな》つた。そして、右手《みぎて》でバチヤバチヤ水《みづ》を叩《たた》いた。割《わり》に流《なが》れのある水《みづ》はともすれば彼《かれ》を横倒《よこたふ》しにしさうになつた。
「大丈夫《だいぢやうぶ》だ、水《みづ》は淺《あさ》い‥‥」と、高岡軍曹《たかをかぐんそう》はまた呶鳴《どな》つた。「おい田中《たなか》、早《はや》く銃《じう》を取《と》つてやれ‥‥」
「軍曹殿《ぐんそうどの》、軍曹殿《ぐんそうどの》、早《はや》く早《はや》く、銃《じう》を早《はや》く‥‥」と、中根《なかね》は岸《きし》に近寄《ちかよ》らうとしてあせりながら叫《さけ》んだ。銃《じう》はまだ頭上《づじやう》にまつ直《す》ぐ差《さ》し上《あ》げられてゐた。
「田中《たなか》、何《なに》を愚圖々々《ぐづぐづ》しとるかつ‥‥」と、軍曹《ぐんそう》は躍氣《やつき》になつて足《あし》をどたどたさせた。
「はつ‥‥」と、田中《たなか》はあわてて路上《ろじやう》を[#「路上《ろじやう》を」は底本では「路上《ろじやう》は」
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