]腹這《はらば》ひになつて手《て》を延《の》ばした。が、手《て》はなかなか届《とど》かなかつた。手先《てさき》と銃身《じうしん》とが何度《なんど》か空間《くうかん》で交錯《かうさく》し合《あ》つた。
「留《とま》つとつちやいかん。用《よう》のない者《もの》はずんずん前進《ぜんしん》する‥‥」と、騷《さわ》ぎの最中《さいちう》に小隊長《せうたいちやう》の大島少尉《おほしませうゐ》ががみがみした聲《こゑ》で呶鳴《どな》つた。
 岸邊《きしべ》に丸《まる》くかたまつてゐた兵士《へいし》の集團《しふだん》はあわてて駈《か》け出《だ》した。私《わたし》もそれに續《つづ》いた。そして、途切《とぎ》れに小隊《せうたい》の後《あと》を追《お》つて漸《やうや》くもとの隊伍《たいご》に歸《かへ》つた。劇《はげ》しい息切《いきぎ》れがした。
 間《ま》もなく小隊《せうたい》は隊形《たいけい》を復《ふく》して動《うご》き出《だ》した。が、兵士達《へいしたち》の姿《すがた》にはもう疲《つか》れの色《いろ》も眠《ねむ》たさもなかつた。彼等《かれら》は偶然《ぐうぜん》の出來事《できごと》に變《へん》てこに興奮《こう
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