》い丘陵《きうりよう》や樹木《じゆもく》の影《かげ》が鉛色《なまりいろ》の空《そら》を背《せ》にしてうつすりと見《み》えた。
「志願兵殿《しぐわんへいどの》、何時《なんじ》でありますか‥‥」と、背後《うしろ》から兵士《へいし》の一人《ひとり》が訊《たづ》ねた。
「一|時《じ》十五|分前《ふんまへ》だ‥‥」と、私《わたし》は覺束《おぼつか》ない星明《ほしあか》りに腕時計《うでどけい》をすかして見《み》ながら答《こた》へた。
 が、さう答《こた》へながらも夜《よる》がそんなに更《ふ》けたかと思《おも》ふと同時《どうじ》に、私《わたし》の眠《ねむ》たさは一さう濃《こ》くなつた。そして、ふらふらしながら歩《ある》き續《つづ》けてゐる内《うち》に現實的《げんじつてき》な意識《いしき》は殆《ほとん》ど消《き》えて、變《へん》にぼやけた頭《あたま》の中《なか》に祖母《そぼ》や友達《ともだち》の顏《かほ》が浮《うか》び上《あが》つたり、三四|日前《かまへ》にK館《くわん》で見《み》た活動寫眞《くわつどうしやしん》の場面《ばめん》が走《はし》つたりした。――夢《ゆめ》かな‥‥と思《おも》ふと、木《き》の
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