一寢入《ひとねいり》させてくれりやあ命《いのち》も要《い》らないな‥‥」
「はは、かうなりやあ人間《にんげん》もみじめだ‥‥」と、私《わたし》は暗闇《くらやみ》の中《なか》で我知《われし》らず苦笑《くせう》した。
 河野《かうの》も私《わたし》もそのまま口《くち》を噤《つぐ》んだ。そして、時々《ときどき》よろけて肩《かた》と肩《かた》をぶつけ合《あ》つたりしながら歩《ある》いてゐた。私《わたし》はもう氣《き》になる中根《なかね》の事《こと》なんかを考《かんが》へる隙《すき》はなかつた。自分自身《じぶんじしん》まるで地上《ちじやう》を歩《ある》いてゐるやうな氣持《きもち》はしなかつた。重《おも》い背嚢《はいなう》に締《し》め著《つ》けられる肩《かた》、銃《じう》を支《ささ》へた右手《みぎて》の指《ゆび》、足《あし》の踵《かかと》――その處處《ところどころ》にヅキヅキするやうな痛《いた》みを感《かん》じながら、それを自分《じぶん》の體《からだ》の痛《いた》みとはつきり意識《いしき》する力《ちから》さへもなかつた。そして、――寢《ね》てはならん‥‥と、一|所懸命《しよけんめい》に考《かんが》
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