つた》く正體《しやうたい》を失《うしな》つてゐた。彼《かれ》は何度《なんど》私《わたし》の肩《かた》に倒《たふ》れかゝつたか知《し》れなかつた。そしてまた何度《なんど》私《わたし》は道《みち》の外《そと》へよろけ出《だ》さうとする彼《かれ》を抑《おさ》へてやつたか知《し》れなかつた。
「おい、寢《ね》ちやあ危《あぶな》いぞ‥‥」と、私《わたし》は度毎《たびごと》にハラハラして彼《かれ》の脊中《せなか》を叩《たた》き著《つ》けた。が、瞬間《しゆんかん》にひよいと氣《き》が附《つ》いて足元《あしもと》を堅《かた》めるだけで、また直《す》ぐにひよろつき出《だ》すのであつた。
「みんな眠《ねむ》つちやいかん‥‥」と、時時《ときどき》我我《われわれ》の分隊長《ぶんたいちやう》の高岡軍曹《たかをかぐんそう》は無理作《むりづく》りのドラ聲《ごゑ》を張《は》り上《あ》げた[#「上《あ》げた」は底本では「上《あ》けた」]。が、中根《なかね》ばかりではない、どの兵士達《へいしたち》ももうそれに耳《みみ》を假《か》すだけの氣力《きりよく》はなかつた。そして、まるで酒場《さかば》の醉《よ》ひどれのやうな兵士《
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