れた中根《なかね》の姿《すがた》を想像《さうぞう》して時時《ときどき》可笑《をか》しく[#「可笑《をか》しく」は底本では「可笑《をか》じく」]なつたり、氣《き》の毒《どく》になつたりした。が、何時《いつ》か私《わたし》も襲《おそ》つてくる睡魔《すゐま》を堪《こら》へきれなくなつてゐた。

 N原《はら》の出張演習《しゆつちやうえんしふ》は二|週間程《しうかんほど》で過《す》ぎた。我我《われわれ》[#「我我」は底本では「我日」]は日日《にちにち》の劇《はげ》しい演習《えんしふ》に疲《つか》れきつた。そして、六|月《ぐわつ》の下旬《げじゆん》にまたT市《し》の居住地《きよぢうち》に歸營《きえい》した。中根《なかね》の話《はなし》はもうすつかり忘《わす》れられてゐた。中根《なかね》自身《じしん》も相變《あひかは》らず平《ひら》ぺつたい顏《かほ》ににやにや笑《わら》ひを浮《うか》べながら勤務《きんむ》してゐた。
 歸營《きえい》してから三|日目《かめ》の朝《あさ》だつた。中隊教練《ちうたいけうれん》が濟《す》んで一先《ひとま》づ解散《かいさん》すると、分隊長《ぶんたいちやう》の高岡軍曹《たかを
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