ぜ‥‥」と、私《わたし》は傍《そば》の兵士《へいし》を顧《かへり》みた。
「さうですか。でも、ありやあ好《い》い眠氣覺《ねむけざま》しですよ‥‥」と、彼《かれ》は冷淡《れいたん》に答《こた》へた。
「ふふ、眠氣覺《ねむけざま》しも利《き》き過《す》ぎらあ‥‥」
「はつはつはつ、水《みづ》の中《なか》で一|生懸命《しよけんめい》に銃《じう》を差《さ》し上《あ》げた處《ところ》は好《よ》かつたね‥‥」
「とんだ五九|郎《らう》だ‥‥」と、誰《だれ》かが呟《つぶや》いた。劇《はげ》しい笑聲《せうせい》がわつと起《おこ》つた。
 が、暫《しばら》くすると中根《なかね》の話《はなし》にも倦《あ》きが來《き》た。そして、三十|分《ぷん》も經《た》たない内《うち》にまた兵士達《へいしたち》の歩調《ほてう》は亂《みだ》れて來《き》た。ゐ眠《ねむ》りが始《はじ》まつた。みんなは下弦《かげん》の月《つき》が東《ひがし》の空《そら》に出《で》て來《き》たのも氣《き》が附《つ》かずに醉《よ》ひどれのやうに歩《ある》いてゐた。
 N原《はら》の行手《ゆくて》はまだ遠《とほ》かつた。私《わたし》が濡《ぬ》れしよび
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