かぐんそう》は我々《われわれ》を銃器庫裏《ぢうきこうら》の櫻《さくら》の樹蔭《こかげ》に連《つ》れて行《い》つて、「休《やす》めつ‥‥」と、命令《めいれい》した。私《わたし》はまた何《なに》かの小言《こごと》でも聞《き》くのかと思《おも》つて、軍曹《ぐんそう》の鼻《はな》の下《した》にチヨツピリ生《は》えた口髭《くちひげ》を眺《なが》めてゐた。
「何《なん》でえ、何《なん》でえ‥‥」と、小聲《こごゑ》でいぶかる兵士《へいし》もあつた。
 高岡軍曹《たかをかぐんそう》は暫《しばら》くみんなの顏《かほ》を見《み》てゐたが、やがて何時《いつ》ものやうに胸《むね》を張《は》つて、上官《じやうくわん》らしい威嚴《いげん》を見《み》せるやうに一聲《ひとこゑ》高《たか》く咳《せき》をした。
「今日《けふ》貴樣達《きさまたち》を此處《ここ》へ集《あつ》めたのは外《ほか》でもない。この間《あひだ》N原《はら》へ行《ゆ》く途中《とちう》に起《おこ》つた一《ひと》つの出來事《できごと》に對《たい》する己《おれ》の所感《しよかん》を話《はな》して聞《き》かせたいのだ。それは其處《そこ》にゐる中根《なかね》二|
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