互に振り返つて、水島君と私とは強ひられたやうな笑ひ聲を洩らし合つた。
「然し、考へてみると、すべてが馬鹿馬鹿しいよ。――より善き、より幸福な人生を建設しようとしてソヴイエツト政府が成立する。が、その革命の背後には幾千、幾萬の犧牲者があんな風にして苦しんでゐる。少くとも、彼等にとつて人生は決してより善くも、より幸福にもなつてゐやあしないんだからね。僕は革命なんてほんとに厭やだと思ふ……」
「だが、革命者の立場から云へば……」と、私は詞を挾みかけた。
「待ち給へ。――あんな犧牲は當然だと云ふんだらう……」と、水島君は強く私を遮つた。
「さうだ……」
「だから、僕は革命なんか厭やだと思ふんだよ。――一體、君はさう云ふ革命者の心持を肯定出來るのかね?」
「いや、別に肯定してゐる譯ぢやない。」
「無論、さうだらう。――それに……」と、水島君の聲は急に高くなつて來た。「根本的に云へば、革命なんかを幾度繰り返してみたつて、少數の革命者が自我《エゴ》の滿足をかひ得るだけで、人間全體は決してより善くも、より幸福にもなり得ないと僕は思ふね。――更に云ひ直せば、人間がどんなにあがいてみたつて、結局人生には
前へ 次へ
全32ページ中10ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
南部 修太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング