エ》「アポロ」で互に別れを惜む氣持もあつて酒の醉を買ひながら、四時間あまりを過したのであつた。
「おい近藤君、どうしたんだ?――厭やに默りこんでしまつたぢやないか……」と、一町あまりも歩いたあと、水島君は不意に私を振り返りながら詞をかけた。
「いや、別にどうもしやしないさ……」私は漠然と答へ返した。が、醉にぐらぐらするやうな頭の中には酒塲で受けた色色な印象が、憂欝な氣持の尾を引きながら次から次へと繰り返されてゐるのであつた。
「然しね、酒塲にゐるああ云つた女の行末は、一體どうなるんだらう?」
「さあ、どうなるかな? この頃、僕はもうそんな事考へてみようともしなくなつたが、たまに一人ぐらゐが奇蹟的な幸福な餘生にはいれたにした處で、多數は悲慘な末路を遂げるんだと思ふよ。」
「さうかな。――だが、ハルピンて全く堪らない感じのする町だね。人間がまるで踏みくちやにされてしまつてる……」
「うむ、踏みくちやにされてしまつてるは好いね。――實際、こんな處で人間を人間らしく思はうとしたり、人生を眞面目に考へようとした日にやあ、氣違ひになるより外仕方がないよ。」
「はつはつは……」
「はつはつは……」

前へ 次へ
全32ページ中9ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
南部 修太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング