ハルピンの一夜
南部修太郎
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)指揮者《コンダクタア》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)時時|眞面《まとも》になる
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)フオツクス[#「フオツクス」は底本では「フオツス」]
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頭の禿げた、うす穢いフロツク姿の老人の指揮者《コンダクタア》がひよいと立ち上つて指揮棒を振ると、何回目かの、相變らず下品な調子のフオツクス・トロツトが演奏團席《ジヤズ・バンド》の方で始まつた。落ちぶれ貴族の息子とでも云ひさうな若いロシヤ人、眼の動かし方に厭味のある、會社の書記風のイギリス人、髪の毛を妙に凝つた仕方に縮らせたアメリカ人の下士官、金儲けにぬけめのなささうな、商人らしい中年のフランス人、何れも其處の常連だと云ふ、何處となく下等な身成をした、一癖ありげな顏附の男達の十餘人と、それを彩《いろど》る酒塲《カバレエ》稼ぎのロシヤ人の賣笑婦達――壁際のテエブルのまはりに休んでゐた彼等は順順に立
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