ち上つて、それぞれに腕を組み合せながら、強い酒の香と、煙草の烟のむつと立ち罩めた、明りの色の如何にも陰氣くさいホオルの中へ、樂の音に合せて踊の輪を作つて行く。まだお客の掴めない女達は自分達同士の組を拵へて、紅を使つた厚い化粧の毒毒しい顏に蓮葉《コケツト》な笑ひを浮べながら、腰の振方に蠱惑するやうな誇張を交へながら、踊の輪の中へ加はつて行く。氣持を變に浮き立たせる樂音の渦卷、靴の踵と床の擦れ合ふ響、踊りながらする男女の囁き、その間に時時洩れる女達の淫蕩な笑ひ聲。正面の酒賣棚の右手の壁に掛かつた六角時計を見ると、丁度一時五分だつた。私はふと思ひ出して、半分殘つてゐたグラスのウイスキイをぐつと呑み干した。
「おや、何時の間にはいつて來たんだらう?」と、その時踊の輪の方を眺め降してゐた水島君は、一息吸つた葉卷の烟をふうつと吐きながら呟いた。
「何だい?」と、とろんとして來た眼を見張りながら、私は水島君の視線の行手を追つた。
「ほら、あのでつぷり肥つたロシヤ人と組みながら、今、こつちを向つて笑つてる女があるだらう。――緑色の上着を着た……」
「うむ、ゐるゐる。――素適な美人《シヤン》ぢやないか…
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