…」頷き返しながら、私はその女の方を思はず惹きつけられるやうに見詰めた。
それまで私もその女には氣附かずにゐた。丈の高い男の嚴丈さうな腕に、もたれるやうに腰を抱きかかへられながら、女は踵の高い赤革靴の運び輕げに踊つてゐる。房房した亞麻色の髪を羊の毛のやうに縮らせた、小柄の、然し肉附の好い女。強い線を描いた彫刻的な鼻と、きつと投げた瞳の光に何處となく智的な感じがあつた。年は二十二三なのであらう。如何にも物慣れた、形の好い恰好に踊り續けながら、時時|眞面《まとも》になる女の顏には、外の女達とは際立つて品の好い、が、同時に強く人の眼を奪ふやうな魅力のある笑ひが始終たたへられてゐた。
「あの女がね……」と、グラスを一啜りして、水島君は云つた。
「うむ……」
「この酒塲《カバレエ》での一番腕つこきなんださうだよ。」
「さうだらう。――美人《シヤン》ぢやあるし、何處か凄さうな處があるもの……」と、相槌打ちながら、私は水島君を振り返つた。
と、水島君は何故かにやりと笑つた。
「處でね、あの女の前身は何だと思ふ?――何處か感じに變つた處があるだらう……」
「さあ、さう云へば、何だか上品な氣がするね
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